コンピュータモデルは銀河合体による進化の様子を示してくれます。しかし、やはり実際に初期の宇宙でこのプロセスがどのように起こっているかを観測する必要があります。それを実現する一つの手段はアインシュタインの一般相対性理論で予言されているテクニックを利用することです。銀河団中のダークマターは重力レンズの役割をし、背後の天体の明るさを10倍以上に増加させることができます。天文学者はこのテクニックを使って非常に遠くて暗い銀河をいくつか発見しています。しかし、重力レンズが有効な範囲は小さく、統計的に有意な数のサンプルを集めることは困難です。
Ultra-Deep Fieldは四つの可視光広帯域フィルターとWFC3の三つの近赤外フィルターで撮影されています。遠方の銀河からの紫外線は、宇宙膨張によって近赤外線にまで赤方偏移します。銀河間ガスによって紫外線の短波長側での光が吸収されるため、高い赤方偏移を示す銀河はUltra-Deep Fieldの短波長画像から消えていきます。そのため、波長ごとの画像で銀河がどのように消えていくかを調査することで、赤方偏移を測ることができます。しかし、もっとも赤方偏移の大きな銀河では、紫外線はハッブルで撮影可能な近赤外線よりも長い波長へ移ってしまいます。そのため、重力レンズを使ってもハッブル望遠鏡では見ることができません。
赤外線は熱放射です。そのため、望遠鏡自体の熱に邪魔されないように冷却されている必要があります。冷却されていない望遠鏡による赤外線観測は、電球を詰め込んだ望遠鏡で可視光観測を行うようなものです。望遠鏡自身が観測しようとする光を発してしまっているのです。
低い地球周回軌道において太陽光による温度変化の影響を抑えるため、ハッブル望遠鏡はヒーターによって室温(25℃)に保たれています。ハッブルは近赤外の観測能力を持っているのですが、この温度の問題により長い波長の感度が制限されています。2003年にNASAによって打ち上げられたスピッツァ宇宙望遠鏡(Spitzer Space Telescope)は液体ヘリウムを使用した赤外線望遠鏡で、絶対温度11度(-262℃)に冷却されており、ハッブルが持ち得なかった赤外線への感度を有しています。そのスピッツァ望遠鏡をUltra-Deepフィールドへ向けた際に、いくつかの遠方銀河が赤外線で明るく光っているということが明らかになり、点音楽者を驚かせました。
銀河において最初の星々が形成されたとき、その光のほとんどは最も大きな星からのものに占められます。それらの星は太陽の30-50倍の重さを持ち、非常に熱く、ほとんどのエネルギーを紫外線で放射します。しかし、明るく光っている代償としてその寿命は短く、僅か数百年で水素燃料を使い果たし、超新星爆発を起こしてしまいます。その後、太陽のような小さな星が銀河の光のほとんどを占めるようになります。これらの小さな星は大きな星より冷たく、ほとんどのエネルギーを紫外線ではなく可視光もしくは近赤外線で放出します。
Ultra-Deep Fieldの遠方銀河からの紫外線は可視光の端まで、可視光は赤外線まで赤方偏移します。スピッツァ望遠鏡による観測より、これらの銀河で形成されているのは紫外線の強い第一世代の星ではなく、4-5億歳のより古い星が大勢を占めているということが明らかになりました。これらの銀河のいくつかは、宇宙年齢10億年以内に形成されているはずで、その紫外線放射はハッブルで観測できない赤外線にまで赤方偏移しています。
スピッツァ望遠鏡は赤外線を検出するのに十分なほど冷却されていますが、主鏡の直径は85センチしかありません。そのため、微弱な銀河に対する感度は次の二つの点で限られています。一つはUltra-Deep Field中の銀河を検出するのに十分な集光能力がないという点。もう一つは望遠鏡の分解能が(波長/口径)できまるため、スピッツァーによる小さな主鏡で長い波長の観測では銀河一つ一つを分解でないという点です。
James Webb宇宙望遠鏡へ続く
- 'Finding the First Galaxies', Jonathan P. GARDNER, Sky & Telescope 2010年1月
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