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2010年5月8日土曜日

Solar Dynamics Observatory (2)

先日、Solar Dynamics Observatory (SDO)のファーストライトの記事を紹介しましたが、SDO計画に関する記事があったのでお届けします。

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NASAの'Living With a Star Program'の最初のミッションであるSolar Dynamics Observatory (SDO)は、太陽活動の変動や地球への影響を調査します。約3.1tの衛星は2010年初めにフロリダのケープカナベラルからアトラスV型ロケットによって静止軌道に打ち上げられます。そのため、常時、太陽を観測しつつLas Cruces(New Mexico)の地上局と通信することができます。

SDOは太陽大気の小さなスケールの変動をさまざまな波長で同時に観測し、強力な磁場がどのように生成/成長するのかを調べます。また、蓄積された磁場エネルギーがどのように太陽風や高エネルギー粒子に変換されるのか、それらのプロセスが太陽のエネルギー放出量の変化にどのように影響するのかも調査されます。

SDOのメインミッションは5年間続く予定で、10年分の燃料が搭載されています。8.5億ドルを費やすこのミッションでは、膨大な量のデータが取得されます。SDOはハイビジョンの10倍の分解能で太陽全面画像を毎秒撮影します。4096x4096ピクセルのSDOの画像はIMAXムービーに匹敵する品質です。取得されるデータ量は一日当り1.5テラバイトで、音楽に換算すると約50万曲をダウンロードするのに相当します。

Atmospheric Imaging Assembly (AIA)は四つの望遠鏡を並べた装置で、コロナ外縁部を複数波長で同時撮影します。一秒角分解能で太陽直径の1.3倍の視野の画像を10秒ごとに10波長で取得します。AIAのデータは、太陽磁場の変動が、コロナを加熱しフレアを引き起こすエネルギーにどのようにして転換されるかを理解する為に役立ちます。

Extreme ultraviolet Variability Experiment (EVE)は、さまざまなタイムスケールでの極紫外線スペクトル強度の変化を測定します。

Helioseismic and Magnetic Imager (HMI)は、太陽の内部を観測し太陽磁場を作り出すプラズマ流をマッピングします。太陽を横断する音波を用いて太陽内部の画像を作成し、光球から現れる磁場の強度と方向も測定します。HMIで取得されるデータは、太陽活動の11年周期を引き起こすメカニズムへの知見を与え、磁場が黒点周辺に集中する過程を明らかにします。

SDOの計測機器は、太陽磁場とその地球への影響を探査します。SDOのデータは、太陽表面にかかるコロナループやフレア、突如数百万トンの物質が地球に向かって放出されるcoronal mass ejection等がどのようにして起きるのかを調査するために使用されます。このような宇宙天気をよりよく理解することは、電力利用や人工衛星、大気圏外へ挑む人々を守る助けとなるでしょう。

  • 'NASA sets its sights on the Sun', Laura Layton & Dean Pesnell, Sky and Telescope誌, 2010 1月号

2010年5月4日火曜日

宇宙で最初の銀河を探せ(4)

James Webb宇宙望遠鏡

James Webb宇宙望遠鏡は、スピッツァより大きく、ハッブルよりも低温に冷却されます。巨大な遮光板に隠れ宇宙空間に放熱することで、自然と-225℃に保たれます。巨大なミラーと冷却の恩恵で、ビッグバンの2.5から4億年後に生まれたと考えられている最初の銀河を検出するのに必要な感度を持ち得ます。

James Webb宇宙望遠鏡の建設には大きな技術的なハードルがいくつか存在します。ハッブルのように太陽光の中に出入りするので、温度を一定に保つためヒーターを用います。スピッツァは常に地球の影に入るsolar drift away軌道に打ち上げられており、年々1000マイルづつ地球から離れていっています。スピッツァは地球から離れていくことで、地球の影というシールドを使うことができているのです。

James Webb宇宙望遠鏡は、テニスコートほどもある遮光板の影に入るようになっています。二つの理由から遮光板は五つの層を持っています。一つ目は、層と層の間から熱を逃がせること。二つ目は、微小隕石によって遮光板に穴があけられた場合で も、一直線の穴になりにくく、主鏡に日射が入りにくいことです。また、地球から距離が100万マイルのラグランジュ2(L2)ポイント周辺の特別な軌道に打ち上げられる予定です。通常、地球より太陽から遠くに位置する軌道では、公転周期は地球の一年より若干長めで、スピッツァのように少しずつ地球から離れていきます。しかし、L2ポイントでは太陽と地球の重力が加算されるため、太陽と地球、およびL2ポイントは常に一直線になります。Webb望遠鏡の遮光板は、太陽からの直射はもちろんのこと、地球や月の明るい部分からの散乱光からも望遠鏡を守ります。Webb望遠鏡は常に真夜中の空に滞在することになります。

現在、最も大きなロケットの幅は5メートルです。そのため、6.5メートルの主鏡を持つWebb望遠鏡を打ち上げるためには新たな技術開発が必要です。主鏡は、独立に可動する18個のセグメントからなります。ロケットのサイズを超えるため、最外周に位置するセグメントは折り畳み式になっています。遮光板も主鏡の周りに折り畳まれます。打ち上げ後、太陽電池パネルが展開され望遠鏡に電力が供給されます。通信用アンテナが地球に向けられ、望遠鏡と宇宙船が分離されます。最後に副反射鏡が三本足のスパイダーに支えられ、主鏡が完全に展開します。全てが配置されると望遠鏡は明るい星に向けられ、18枚のセグメントが一つの焦点を結ぶようピント調整が行われます。

これらの全ての技術開発はコストに跳ね返ってきます。運用終了までのすべてのコストのうちNASAが50億ドルを負担し、残りをヨーロッパおよびカナダが負担します。1990年代後半の試算では、技術開発、設計および打ち上げ後の運用経費を含まない建設費用は5−10億ドル程度でした。しかし、この建設経費だけでも、現在までに試算の倍を費やしています。増加の原因は、Webb望遠鏡が軌道に乗った時に正しく動作することを保証するための厳格なテストプログラムによるものです。現在までの建設コストは、インフレ補正をし会計処理を合わせたハッブルの建設コストに匹敵します。Webbプロジェクトは、独立した審査の後、実施段階に移行し、NASAはその予算とスケジュールを連邦議会に提出します。

多目的望遠鏡

James Webb宇宙望遠鏡はハッブルとスピッツァの後継にあたります。ハッブルのように、ヨーロッパとカナダの宇宙局との大型の国際協力を代表する存在です。当初の目的は最初の銀河を検出することでしたが、ほぼ全ての天文学的な問題の解決に寄与できる多目的観測装置でもあります。

星や惑星は、ガスとちりの雲の中での重力と角運動量、圧力、磁場の複雑な相互作用の下、生まれます。宇宙塵は星間雲や星が生まれる場所(M16のように暗黒星雲を伴うような星雲)からの紫外線や可視光をほぼ隠してしまいます。赤外線はそのような塵を透過し、生まれつつある星を見ることができます。星は晩年には惑星状星雲を形作ります。周辺の円盤状構造を星が加熱するため、赤外線での放射が増大します。赤外線での高感度、高分解能の観測が可能なWebb望遠鏡は星や惑星状星雲がどのように生まれるかを調査する強力なツールとなるでしょう。

ハッブルやスピッツァのように、Webbも世界中の多くの天文学者によって使われ、美しい画像をもたらしてくれるでしょう。我々が想像もしなかった重要な発見が行われるかもしれません。

  • 'Finding the First Galaxies', Jonathan P. GARDNER, Sky & Telescope 2010年1月

宇宙で最初の銀河を探せ(3)

深宇宙への技術

コンピュータモデルは銀河合体による進化の様子を示してくれます。しかし、やはり実際に初期の宇宙でこのプロセスがどのように起こっているかを観測する必要があります。それを実現する一つの手段はアインシュタインの一般相対性理論で予言されているテクニックを利用することです。銀河団中のダークマターは重力レンズの役割をし、背後の天体の明るさを10倍以上に増加させることができます。天文学者はこのテクニックを使って非常に遠くて暗い銀河をいくつか発見しています。しかし、重力レンズが有効な範囲は小さく、統計的に有意な数のサンプルを集めることは困難です。

Ultra-Deep Fieldは四つの可視光広帯域フィルターとWFC3の三つの近赤外フィルターで撮影されています。遠方の銀河からの紫外線は、宇宙膨張によって近赤外線にまで赤方偏移します。銀河間ガスによって紫外線の短波長側での光が吸収されるため、高い赤方偏移を示す銀河はUltra-Deep Fieldの短波長画像から消えていきます。そのため、波長ごとの画像で銀河がどのように消えていくかを調査することで、赤方偏移を測ることができます。しかし、もっとも赤方偏移の大きな銀河では、紫外線はハッブルで撮影可能な近赤外線よりも長い波長へ移ってしまいます。そのため、重力レンズを使ってもハッブル望遠鏡では見ることができません。

赤外線は熱放射です。そのため、望遠鏡自体の熱に邪魔されないように冷却されている必要があります。冷却されていない望遠鏡による赤外線観測は、電球を詰め込んだ望遠鏡で可視光観測を行うようなものです。望遠鏡自身が観測しようとする光を発してしまっているのです。

低い地球周回軌道において太陽光による温度変化の影響を抑えるため、ハッブル望遠鏡はヒーターによって室温(25℃)に保たれています。ハッブルは近赤外の観測能力を持っているのですが、この温度の問題により長い波長の感度が制限されています。2003年にNASAによって打ち上げられたスピッツァ宇宙望遠鏡(Spitzer Space Telescope)は液体ヘリウムを使用した赤外線望遠鏡で、絶対温度11度(-262℃)に冷却されており、ハッブルが持ち得なかった赤外線への感度を有しています。そのスピッツァ望遠鏡をUltra-Deepフィールドへ向けた際に、いくつかの遠方銀河が赤外線で明るく光っているということが明らかになり、点音楽者を驚かせました。

銀河において最初の星々が形成されたとき、その光のほとんどは最も大きな星からのものに占められます。それらの星は太陽の30-50倍の重さを持ち、非常に熱く、ほとんどのエネルギーを紫外線で放射します。しかし、明るく光っている代償としてその寿命は短く、僅か数百年で水素燃料を使い果たし、超新星爆発を起こしてしまいます。その後、太陽のような小さな星が銀河の光のほとんどを占めるようになります。これらの小さな星は大きな星より冷たく、ほとんどのエネルギーを紫外線ではなく可視光もしくは近赤外線で放出します。

Ultra-Deep Fieldの遠方銀河からの紫外線は可視光の端まで、可視光は赤外線まで赤方偏移します。スピッツァ望遠鏡による観測より、これらの銀河で形成されているのは紫外線の強い第一世代の星ではなく、4-5億歳のより古い星が大勢を占めているということが明らかになりました。これらの銀河のいくつかは、宇宙年齢10億年以内に形成されているはずで、その紫外線放射はハッブルで観測できない赤外線にまで赤方偏移しています。

スピッツァ望遠鏡は赤外線を検出するのに十分なほど冷却されていますが、主鏡の直径は85センチしかありません。そのため、微弱な銀河に対する感度は次の二つの点で限られています。一つはUltra-Deep Field中の銀河を検出するのに十分な集光能力がないという点。もう一つは望遠鏡の分解能が(波長/口径)できまるため、スピッツァーによる小さな主鏡で長い波長の観測では銀河一つ一つを分解でないという点です。

James Webb宇宙望遠鏡へ続く
  • 'Finding the First Galaxies', Jonathan P. GARDNER, Sky & Telescope 2010年1月

宇宙で最初の銀河を探せ(2)

銀河の形成 

ビッグバンの後、宇宙は膨張し冷却され、成長する暗黒物質(ダークマター)の塊による重力の高まりとともに、水素とヘリウムでみたされていました。理論によると、ビッグバンの一億年後(赤方偏移=30)にまず大きな星が生まれました。これらの星は早々に超新星爆発を起こし、比較的小さなダークマターの塊を全て吹き飛ばすため、周辺で星が作られる可能性は無くなります。しかし、2.5億年後(赤方偏移=16)には、さまざまな大きさでガス雲の収縮が始まり急速に星が作られだします。そして、最初の銀河が誕生します。

Hubble Ultra-Deep Fieldにみられる初期銀河は、現在の標準的な銀河より小さく、球状星団より大きい程度です。それらは列車事故の残骸のような小さくてたわいない塊の集合に過ぎません。その質量の測定は困難ですが、われわれの天の川銀河より小さいことは明らかです。しかし、これらの銀河が通常の銀河に進化していき、銀河のハッブル分類を形作っていくのです。

銀河は段階的な合体によって成長していきます。比較的近傍の銀河の中には明らかに重力的な相互作用を起こし、潮汐力で引きはがされたガス/星によるしっぽのような長い構造やリング状構造が見られるものがあり、最近の銀河間衝突の結果であると考えられています。数億個の星の重力的な相互作用を追跡するスーパーコンピュータによるシミュレーションによると、二つの巨大渦巻き銀河が衝突すると、観測されている合体銀河のような形状になることが示されています。そのシミュレーションでは、最終的に銀河は楕円銀河になっていきます。

渦巻き銀河や楕円銀河は、宇宙の歴史を通じて合体を繰り返すことにより成長します。渦巻き銀河は合体により楕円銀河となっていき、楕円銀河は乙女座銀河団のM87のような、銀河団の中心に位置する巨大銀河となっていきます。このようにして、初期宇宙で形成された小銀河は今日みられるような巨大な銀河になっていったのです。数百の小銀河が合体して天の川銀河が形作られたのです。宇宙で最初の銀河が暗いのは、遠方にあるからだけでなく、小さいことも原因の一つです。

  • 'Finding the First Galaxies', Jonathan P. GARDNER, Sky & Telescope 2010年1月

宇宙で最初の銀河を探せ(1)

ハッブル望遠鏡はこれまで発見されたなかで最も遠方にある銀河の撮影に成功しました。しかしながら、宇宙で最初の銀河を見るためには、もっと遠くを観測しなければなりません。

2009年5月、ハッブル宇宙望遠鏡に二つの新しいカメラが取り付けられ、より強力な望遠鏡となりました。そのうちのひとつがWFC3(Wide-Field Camera3)です。ハッブル望遠鏡の近赤外域の感度と視野を拡大し、遠方銀河の探査能力はこれまでの20倍に跳ね上がりました。

WFC3がその性能を発揮するのに、それほど時間はかかりませんでした。 カリフォルニア大学サンタクルス校のGarth IllingworthとRychard Bouwensらのチームは、WFC3を用いて非常に遠方の5つの銀河を発見しました。それらはビッグバンから6億年(赤方偏移8.5)たったころの銀河の進化に関する知見をもたらします。

これらの初期の銀河は、これまでに既知の天体の中で最も遠方にあると認定されたガンマ線バースト090423とほぼ同じ距離に位置しています。しかしながら、記録を破ることに興味があるわけではありません。あくまで、銀河がどのように形成され、今日みられるような巨大な星の集合体にまで成長するのかを理解したいのです。

遠方の銀河の研究は、天空の比較的空虚な領域を長時間撮影することによって行います。2004年、ハッブル望遠鏡を南天の「ろ座」の一角に向け500時間にも及ぶ長時間撮影が行れました。これがHubble Ultra-Deep Fieldです。その中には可視光で最も暗くて遠い銀河が含まれています。最近、同じ領域に対しWFC3での48時間の撮影が行われ、近赤外線までカバーできています。

Ultra-Deep Fieldや他の銀河サーベイから、宇宙の星形成の歴史が調査されています。それによると、星形成のピークは今から約100億年前(宇宙年齢の1/4)で、現在の15倍の割合で星が量産されていたと考えられています。さらに最初の星や銀河が誕生するころまで時間を遡れば、星形成の割合はゼロになるはずです。しかしながらWFC3の観測でも、星形成の割合は現在とほぼ同じというところにしか到達できていません。ハッブルの最新技術をもってしても、最初の銀河の誕生までを明らかにするにはいたっていないのです。

問題は二つあります。一つは最初の銀河はハッブルや既存の他の望遠鏡にとって暗すぎること。もう一つは、宇宙の膨張のため可視光がハッブルの近赤外での感度外にまで赤方偏移してしまうことです。そこで、NASAは宇宙で最初の銀河を観測するために、2014年の打ち上げを目指してJames Webb宇宙望遠鏡の開発を進めています。この望遠鏡はハッブルの2.4メートルを大きく上回る6.5メートルの口径をもち、大きく赤方偏移した宇宙で最初の銀河を捉えるために赤外線の観測に特化しています。
  • 'Finding the First Galaxies', Jonathan P. GARDNER, Sky & Telescope 2010年1月