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2012年5月11日金曜日

エータカリーナ星の爆発を再現する光エコー

太陽の約90倍の重さの高温の超巨星エータカリーナは、Homunculus(小人)星雲の二つのバラ型構造内部で輝いています。 二つの球体は、1838年から1858年の間に起こった巨大爆発(Great Eruption)の際に放出されたもので、太陽の10倍にも及ぶ質量の物質が膨張を続けています。 このとき、エータカリーナはシリウスに次いで全天で二番目に明るい星でした。 その後、エータカリーナ自身は大質量を保ったまま生き残り、太陽系近傍での超新星爆発の最有力候補となっています。
「Great Eruptionの原因は恒星天文学の最も大きな謎です」とゴダード宇宙飛行センター(NASA)のMichael Corcoranは言います。 研究者は、Great Eruptionの時に何が起きたかを実際に見ることができる、タイムマシーンのような新しい装置を手にすることを夢見てきました。
そして今日、ある意味でその夢は叶いました。 ある研究チームが巨大望遠鏡に搭載された高感度検出器を用いてGreat Eruptionの光エコー(light echo)を発見したのです。 この光エコーは、エータカリーナから80光年以上離れた星雲物質による反射光で、19世紀の爆発の際の光を再現しています。
光エコーの観測から、すでに新しい知見が得られています。 これまでGreat Eruptionの原因として有力だったのは、エータカリーナの増光に伴う輻射圧の上昇によって引き起こされた大質量の星風でした。 しかし、数年前にアリゾナ大学のNathan Smithが、おそらく超新星の前段階である星の内部での爆発をGreat Eruptionの原因として提唱しました。 彼の研究チームはかすかな光エコーを解析し、Great Eruptionの温度が約5000K (4700° C)であり、星風モデルが有効に働く温度より少なくとも2000° Cほど低いという結果が得られました。
Smithらの証拠はまだ星風説を排除するほどのものではありません。 しかし、微かで検出が難しい光エコーですが、さらなる証拠を提供できる可能性を秘めています。 特に、Great Eruption初期の増光がゆっくりだったのか、それとも急激だったのかを明らかにできるかもしれないと、ゴダードのTheodore Gullは言います。 Great Eruptionの原因を特定する動かぬ証拠となるでしょう。
  • "A Light-Echo Replay of Eta Carinae's Blast" Sky and Telescope誌, 2012年5月

2012年5月7日月曜日

太陽黒点の秘密

水素は宇宙で飛び抜けて存在量が多い元素です。 地球上では水素分子(H2)が中心ですが、宇宙空間では多くが単一の水素原子(H)として存在しています。 H2 のほとんどは、低温(-260 ° C)で密度が高く紫外線からも守られている星間ガス雲の内部でのみ存在しています。
このようなH2 が高温の太陽から検出され、太陽黒点の形成と維持に一役買っていることが、ハワイ大学とアメリカ国立太陽観測所の共同チームの観測から明らかになりました。
Sarah Jaeggliの研究チームは、国立太陽観測所のDunn太陽望遠鏡(ニューメキシコ州)を用いて23個の黒点領域を観測しました。 その結果、低温な太陽黒点暗部では水素元素の2.3%がH2 の形態で存在していることが示されました。
黒点は磁力線の束が太陽内部から出現する領域です。 磁場がイオン(電離)ガスを閉じ込め太陽表層の熱対流から守るため、周囲より低温になり黒点として観測されます。 そのような領域では、H2 を形成される可能性が生じます。
研究チームはまた、H2 の形成は急速な磁場の増加を引き起こし、黒点を小さく長持ちさせると主張しています。 二つの水素原子が一つの分子に置き換わることにより、黒点内部のガス圧が下がり収縮します。 磁力線も収縮するガスに引きずられて密になり、磁場がさらに強くなるのです。
太陽にH2 が存在するということは、太陽黒点がなぜコンパクトに保たれ寿命が長いのかという謎をとく重要なヒントとなり、ひいては、太陽フレアや地球環境における宇宙天気の予報技術の進歩に貢献する可能性もあります。
  • "An Unexpected Secret of Sunspots" Sky and Telescope誌, 2012年5月

2012年5月3日木曜日

最も小さなブラックホール

ブラックホールの周辺領域ほど激しく神秘的な場所はありません。このような領域で起こっている興味深い現象を解くヒントを得るために、観測により得られた豊富だが謎に満ちたデータが蓄積されています。

物質がブラックホールに向かって落下するに伴ってX線を放射するほど高温になり、異常な影響をX線放射に残します。35年以上に渡る研究から、ほとんどのブラックホールはX線のフレアと脈動の様子によって4つのタイプに分けられることが明らかになっています。これらの光度と継続時間における違いは、ブラックホールのサイズ、回転速度、質量降着率、そして、おそらくその他の未知の原因によっています。

変光星わし座V1487として知られるGRS 1915+105は、太陽のおよそ14倍の重さのブラックホールの周りをオレンジ色のK型巨星が公転している天体です。この巨星は、マイクロクエーサーになるのに十分なガスをブラックホールに注ぎ込みます。このブラックホールは断続的なジェットを極方向に光速の98%のスピードで放出しており、周辺物質は典型的に数秒から数時間継続する10種類以上のX線信号を示します。

特にジェット全体のオン/オフが高速に切り替わる、「ハートビート(鼓動)」と呼ばれているパターンが独特です。降着円盤の内側が強力な円盤風が発生するほど成長して高温になると、円盤へ物質が降着できなくなりジェットが止まります。さらに成長し温度が上がると、円盤の内側が崩壊してブラックホールに落ち込み円盤風が止まって、ジェットが再び形成されます。このサイクルが時には40秒間隔で繰り返されます。

この「ハートビート」はこれまでGRS 1915+105特有のものでしたが、現在では二つめの系が見つかっています。さそり座のIGR J17091-3624はGRS 1915+105と同様ですがより早いサイクルのX線信号を示します。ハートビートは早い時で5秒間隔のサイクルで発生します。原因として最も有望な説は、ブラックホールの質量が太陽の3倍程度しか無く、それに応じてすべてがスケールダウンしているというものです。

太陽の3倍は、ブラックホールになる最小質量とブラックホールになれなかった中性子星の理論的な境界となる質量です。
  • "Smallest Black Hole", Sky and Telescope誌 2012年4月号

2012年4月23日月曜日

超巨大ブラックホール

昨年12月、二つの超巨大ブラックホールの発見が世界的なニュースになりました。発見されたのは、これまでに直接的な手法で測定されたものの中で最も巨大なブラックホールである可能性があります。

二つのブラックホールは、それぞれ「しし座銀河団」と「かみのけ座銀河団」の核をなす巨大楕円銀河NGC 3842およびNGC 4889の中心部にあります。カリフォルニア大学バークレイ校のNicholas McConnellとChung-Pei Maが率いるチームは、ハワイのジェミニ望遠鏡(北天)、およびケックII望遠鏡を用いて、これらの銀河最深部の回転速度を測定しました。これによって、銀河中心の光を発しないブラックホールの重力の強さを明らかにし、その質量を求めました。計測されたブラックホールの質量は、NGC 3842では太陽の(100 ± 30)億倍、NGC 4889では(215 ± 155)億倍でした。これまでのチャンピオンはおとめ座銀河団の中心メンバーM87で、2011年の研究では、その質量は太陽の(66 ± 4)億倍と計測されています。新たな二つの巨大ブラックホールはM87より数倍大きい可能性があります。

ただし、発見した研究チームが12/8のNature紙に掲載された論文で明記しているように質量の測定誤差は大きく、その最低値を取るとM87と同程度の質量に落ち着くことにも注意が必要です。新しい計測結果はM87に比べて、明らかに誤差が大きいことがわかります。原因は、二つのブラックホールがM87より五倍遠い3億光年の彼方にあることにあります。この距離は、現在の技術で銀河中心天体の周囲を回るガスや星を用いて質量を測ることができるギリギリの距離です。今回のスペクトル計測では、銀河中心から約1000光年の範囲の星からの光が重なりあっており、誤差を大きくしているのです。

しし座とかみのけ座は春の星座、今が見やすい季節です。3億光年彼方に潜むモンスターに重いを馳せながら眺めてみてはいかがでしょうか。
  •  'Super Black Holes: New Records, if Real' Sky & Telescope誌 2012/03

2010年12月19日日曜日

変身物語 オウィディウス

ギリシャ神話の参考文献として、ホメロスの「オデュッセイア」「イリアス」、ヘシオドスの「神統記」等に並んで有名な「変身物語」を紹介します。

古代ローマの詩人オウィディウス(前43-後18)によって、今からおよそ2000年前に著されたギリシャ・ローマ神話の集大成です。全15巻に250もの物語が含まれています。ローマ神話固有の部分としては、ラテン語で記述されている点、ローマの創始者ロムルスや帝政を布いたカエサルを神格化するくだり、イタリアにあるギリシャの植民地クロトンにすんでいたピタゴラスに関する記述のみです。ローマの人々がギリシャ神話をほとんどそのまま取り込んでいたことがうかがえます。

変身物語というタイトルは、神とかかわりを持った人々が動物や植物、岩などに姿を変えられる話を集めていることから由来しています。もとはバラバラであったであろう逸話を巧みにつなぎ合わせひとつの物語としてまとめ上げてられています。白鳥、猿、カエルやかわせみほか、さまざまな動物の由来となる変身に関する物語が収められています。

変身させられる理由はほとんどが理不尽で、たとえば全能の神ゼウスによって無理やり愛人にさせられた女性が、ゼウスの正妻ヘラの嫉妬から変身させられてしまうパターンが多くみられます。つねづねギリシャの神様は心が狭いなあと思っていましたが、自然を司る神に対する畏敬の念が根底にあるのでしょう。

二千年前の書物でありながら、その豊かな表現力に感嘆させられます。星座やギリシャ神話に興味のある方にはお薦めの二冊です。

文中の神々はローマ名で記述されています。主なギリシャ神との対応は以下の通りです。

ゼウス -> ユピテル
ヘラ -> ユノー
アプロディテ -> ウェヌス
アテナ -> ミネルバ
アルテミス -> ディアナ
ポセイドン -> ネプトゥーヌス
ヘルメス -> メルクリウス
デメテル -> ケレス
エロス -> クピード

ローマの言葉「ラテン語」は英語の元になった言語のため、惑星や衛星などに使われている英語表記とギリシャの神々との対応を類推することができるのも面白いです。

2010年11月7日日曜日

超高速度星の起源

宇宙には、秒速数百キロ以上という速度で移動する「超高速度星(hypervelocity star)」と呼ばれる星が存在します。そのような天体が発見されてわずか5年、現在までに約18個の超高速度星が発見されています。これらは、いずれ銀河系を飛び出し、銀河と銀河の間の空間を永遠にさまようことになるでしょう。そのような超高速度になりえるのは、銀河系内の1億個に一つの星だけです。超高速度星の発見は、近年の高い精度での探査によって可能になりました。

星をそのような高速で放り出すメカニズムはいくつか提唱されていますが、最も信憑性の高い説は、非常に特別な場所で起こる現象によるものです。二重星が銀河系中心に存在する超大型ブラックホールに近付き、 片方の星がブラックホールに捕まって二重星が分離すると、他方の星が超高速で放り出されるというわけです。現在見つかっている18個の超高速度星のうちほとんどがこのメカニズムで説明できると考えられています。


超高速度星'HE 0437-5439'は、既に20万光年の彼方、大マゼラン雲の近くにあります。天文学者のなかには、星の科学組成から銀河系ではなく、大マゼラン雲から来たのではないかという人たちもいます。しかしWarren Brown(Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)の率いるグループによる星の固有運動の計測によって、そのような説は否定されました。3.5年間隔で取得されたハッブル望遠鏡による高分解能撮像によって、この星が大マゼラン雲ではなく、射手座の銀河系中心からやってきたことが示されたのです。


HE 0437-5439は秒速723キロ(時速260万キロ)の超スピードで太陽から遠ざかっています。それでも、現在の位置にやってくるには1億年ほどかかる計算になります。


これは少々厄介な問題があることを示しています。星のスペクトルから、この星は太陽の9倍の質量を持つ主系列B型星で、若い星であると考えられています。このタイプの星は、通常2000万年以上の寿命を持つことができません。


Brownらは、もともと近接した二重星と離れた三番目の星からなる三重星として、我々の天の川銀河の中心付近で生まれたのではないかと提案しています。そして、 三番目の星がブラックホールに捕まり、近接二重星が高速度星として放り出されたとしています。銀河系を飛び出したあと、二重星は片方(または両方)が膨張し、他方を飲み込み、合体して新しい一つの星として再生したというのです。このような星は球状星団の中にみられ、'blue straggler(青いはぐれ星)'として知られています。


チームは現在、銀河系の外に遠ざかりつつある他の四つの高速度星の起源の解明に取り組んでいます。

  • 'A Runaway Star Tells a Long Story', Sky and Telescope誌, 2010年11月号

2010年10月15日金曜日

太陽の320倍の重さを持つ星

1920年代より研究者の間では、宇宙で最も重い星の質量は太陽の100-120倍であると考えられてきました。1924年にアーサー・エディントン(Arthur Eddington)により、これより重い星は放出するエネルギーが重力を上回り星自身の外層を吹き飛ばしてしまうという自己制御機能が働く、という計算が示されていたからです。

その後、この「エディントン限界(Eddington limit)」は若干上方修正されています。最近では、ビッグバン直後の第一世代の星は重金属が含まれない水素とヘリウムのみで構成されているため、この上限値はずっと大きくなることも認識されています。星の最外層が輻射に対してより透明なため輻射圧を受けにくいためで、太陽の数百倍程度の質量まで成長することが可能と考えられています。

しかし、最近の観測結果は、このエディントン限界に疑問を投げかけています。
直接的な質量計測(分光食連星の重力測定)から、カシオペア座のHD15558が太陽の152±51倍、大マゼラン雲のR145が140±37倍の質量を持ち、これまでのところ宇宙で最も重い星とされています。しかし、これらの値に関してはまだ議論がなされている段階で、最も重い星のリストは新たな計測が行われるたびに順位が入れ替わっている状態です。

この7月には、太陽の265倍の重さを持つ星の発見と、その誕生時の質量は320太陽質量と推定されるという発表がなされ、そのニュースは世界中の主要メディアを駆け巡りました。

その星は大マゼラン雲の球状星団R136(タランチュラ星雲の中心)の最も明るい星であるR136a1です。太陽の9百万倍の光度で輝いており、数十年間に渡って観測が行われてきている星です。Paul Crowther(シェフィールド大学、イギリス)とその研究チームはハッブル宇宙望遠鏡とVLT(Very Large Telescope, ヨーロッパ南天天文台)のスペクトル観測データを用いて質量の推定を行いました。また、同研究チームはR136内に太陽の135-195倍の質量を持つ超巨大星が新たに三つ存在することも報告しています。彼らはイギリスの論文雑誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに、これら四つの星で10万個の星を持つ星団の輻射と星風の半分近くを担っていると報告しています。

しかしながら、他の大質量星の専門家は、この発表に対してまだ懐疑的です。なぜなら、発表された星の質量がこれまでの常識をはるかに超えていることと、質量の推定方法が星の光度と温度および星風の放出レートによる間接的な方法によるものであるからです。この明るさの星の挙動に関しては信頼できる知見は得られておらず、最も信頼のおける質量の測定法は、連星重力の力学的測定です。超巨大質量星の専門家、Don Figer氏(ロチェスター工科大学)いわく、「この分野はまだまだ不確定要素が多く、ほとんどの主張は後に覆されてきている」と述べており、ベルギーの専門研究員Yael Naze氏によると、この新たな質量計測はまだ信頼性に欠けるとのことです。

'A 320-Solar-Mass Star... Really?', Sky and Telescope誌, 2010年10月号より