1920年代より研究者の間では、宇宙で最も重い星の質量は太陽の100-120倍であると考えられてきました。1924年にアーサー・エディントン(Arthur Eddington)により、これより重い星は放出するエネルギーが重力を上回り星自身の外層を吹き飛ばしてしまうという自己制御機能が働く、という計算が示されていたからです。
その後、この「エディントン限界(Eddington limit)」は若干上方修正されています。最近では、ビッグバン直後の第一世代の星は重金属が含まれない水素とヘリウムのみで構成されているため、この上限値はずっと大きくなることも認識されています。星の最外層が輻射に対してより透明なため輻射圧を受けにくいためで、太陽の数百倍程度の質量まで成長することが可能と考えられています。
しかし、最近の観測結果は、このエディントン限界に疑問を投げかけています。
直接的な質量計測(分光食連星の重力測定)から、カシオペア座のHD15558が太陽の152±51倍、大マゼラン雲のR145が140±37倍の質量を持ち、これまでのところ宇宙で最も重い星とされています。しかし、これらの値に関してはまだ議論がなされている段階で、最も重い星のリストは新たな計測が行われるたびに順位が入れ替わっている状態です。
この7月には、太陽の265倍の重さを持つ星の発見と、その誕生時の質量は320太陽質量と推定されるという発表がなされ、そのニュースは世界中の主要メディアを駆け巡りました。
その星は大マゼラン雲の球状星団R136(タランチュラ星雲の中心)の最も明るい星であるR136a1です。太陽の9百万倍の光度で輝いており、数十年間に渡って観測が行われてきている星です。Paul Crowther(シェフィールド大学、イギリス)とその研究チームはハッブル宇宙望遠鏡とVLT(Very Large Telescope, ヨーロッパ南天天文台)のスペクトル観測データを用いて質量の推定を行いました。また、同研究チームはR136内に太陽の135-195倍の質量を持つ超巨大星が新たに三つ存在することも報告しています。彼らはイギリスの論文雑誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに、これら四つの星で10万個の星を持つ星団の輻射と星風の半分近くを担っていると報告しています。
しかしながら、他の大質量星の専門家は、この発表に対してまだ懐疑的です。なぜなら、発表された星の質量がこれまでの常識をはるかに超えていることと、質量の推定方法が星の光度と温度および星風の放出レートによる間接的な方法によるものであるからです。この明るさの星の挙動に関しては信頼できる知見は得られておらず、最も信頼のおける質量の測定法は、連星重力の力学的測定です。超巨大質量星の専門家、Don Figer氏(ロチェスター工科大学)いわく、「この分野はまだまだ不確定要素が多く、ほとんどの主張は後に覆されてきている」と述べており、ベルギーの専門研究員Yael Naze氏によると、この新たな質量計測はまだ信頼性に欠けるとのことです。
'A 320-Solar-Mass Star... Really?', Sky and Telescope誌, 2010年10月号より