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2012年4月23日月曜日

超巨大ブラックホール

昨年12月、二つの超巨大ブラックホールの発見が世界的なニュースになりました。発見されたのは、これまでに直接的な手法で測定されたものの中で最も巨大なブラックホールである可能性があります。

二つのブラックホールは、それぞれ「しし座銀河団」と「かみのけ座銀河団」の核をなす巨大楕円銀河NGC 3842およびNGC 4889の中心部にあります。カリフォルニア大学バークレイ校のNicholas McConnellとChung-Pei Maが率いるチームは、ハワイのジェミニ望遠鏡(北天)、およびケックII望遠鏡を用いて、これらの銀河最深部の回転速度を測定しました。これによって、銀河中心の光を発しないブラックホールの重力の強さを明らかにし、その質量を求めました。計測されたブラックホールの質量は、NGC 3842では太陽の(100 ± 30)億倍、NGC 4889では(215 ± 155)億倍でした。これまでのチャンピオンはおとめ座銀河団の中心メンバーM87で、2011年の研究では、その質量は太陽の(66 ± 4)億倍と計測されています。新たな二つの巨大ブラックホールはM87より数倍大きい可能性があります。

ただし、発見した研究チームが12/8のNature紙に掲載された論文で明記しているように質量の測定誤差は大きく、その最低値を取るとM87と同程度の質量に落ち着くことにも注意が必要です。新しい計測結果はM87に比べて、明らかに誤差が大きいことがわかります。原因は、二つのブラックホールがM87より五倍遠い3億光年の彼方にあることにあります。この距離は、現在の技術で銀河中心天体の周囲を回るガスや星を用いて質量を測ることができるギリギリの距離です。今回のスペクトル計測では、銀河中心から約1000光年の範囲の星からの光が重なりあっており、誤差を大きくしているのです。

しし座とかみのけ座は春の星座、今が見やすい季節です。3億光年彼方に潜むモンスターに重いを馳せながら眺めてみてはいかがでしょうか。
  •  'Super Black Holes: New Records, if Real' Sky & Telescope誌 2012/03

2010年12月19日日曜日

変身物語 オウィディウス

ギリシャ神話の参考文献として、ホメロスの「オデュッセイア」「イリアス」、ヘシオドスの「神統記」等に並んで有名な「変身物語」を紹介します。

古代ローマの詩人オウィディウス(前43-後18)によって、今からおよそ2000年前に著されたギリシャ・ローマ神話の集大成です。全15巻に250もの物語が含まれています。ローマ神話固有の部分としては、ラテン語で記述されている点、ローマの創始者ロムルスや帝政を布いたカエサルを神格化するくだり、イタリアにあるギリシャの植民地クロトンにすんでいたピタゴラスに関する記述のみです。ローマの人々がギリシャ神話をほとんどそのまま取り込んでいたことがうかがえます。

変身物語というタイトルは、神とかかわりを持った人々が動物や植物、岩などに姿を変えられる話を集めていることから由来しています。もとはバラバラであったであろう逸話を巧みにつなぎ合わせひとつの物語としてまとめ上げてられています。白鳥、猿、カエルやかわせみほか、さまざまな動物の由来となる変身に関する物語が収められています。

変身させられる理由はほとんどが理不尽で、たとえば全能の神ゼウスによって無理やり愛人にさせられた女性が、ゼウスの正妻ヘラの嫉妬から変身させられてしまうパターンが多くみられます。つねづねギリシャの神様は心が狭いなあと思っていましたが、自然を司る神に対する畏敬の念が根底にあるのでしょう。

二千年前の書物でありながら、その豊かな表現力に感嘆させられます。星座やギリシャ神話に興味のある方にはお薦めの二冊です。

文中の神々はローマ名で記述されています。主なギリシャ神との対応は以下の通りです。

ゼウス -> ユピテル
ヘラ -> ユノー
アプロディテ -> ウェヌス
アテナ -> ミネルバ
アルテミス -> ディアナ
ポセイドン -> ネプトゥーヌス
ヘルメス -> メルクリウス
デメテル -> ケレス
エロス -> クピード

ローマの言葉「ラテン語」は英語の元になった言語のため、惑星や衛星などに使われている英語表記とギリシャの神々との対応を類推することができるのも面白いです。

2010年11月7日日曜日

超高速度星の起源

宇宙には、秒速数百キロ以上という速度で移動する「超高速度星(hypervelocity star)」と呼ばれる星が存在します。そのような天体が発見されてわずか5年、現在までに約18個の超高速度星が発見されています。これらは、いずれ銀河系を飛び出し、銀河と銀河の間の空間を永遠にさまようことになるでしょう。そのような超高速度になりえるのは、銀河系内の1億個に一つの星だけです。超高速度星の発見は、近年の高い精度での探査によって可能になりました。

星をそのような高速で放り出すメカニズムはいくつか提唱されていますが、最も信憑性の高い説は、非常に特別な場所で起こる現象によるものです。二重星が銀河系中心に存在する超大型ブラックホールに近付き、 片方の星がブラックホールに捕まって二重星が分離すると、他方の星が超高速で放り出されるというわけです。現在見つかっている18個の超高速度星のうちほとんどがこのメカニズムで説明できると考えられています。


超高速度星'HE 0437-5439'は、既に20万光年の彼方、大マゼラン雲の近くにあります。天文学者のなかには、星の科学組成から銀河系ではなく、大マゼラン雲から来たのではないかという人たちもいます。しかしWarren Brown(Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)の率いるグループによる星の固有運動の計測によって、そのような説は否定されました。3.5年間隔で取得されたハッブル望遠鏡による高分解能撮像によって、この星が大マゼラン雲ではなく、射手座の銀河系中心からやってきたことが示されたのです。


HE 0437-5439は秒速723キロ(時速260万キロ)の超スピードで太陽から遠ざかっています。それでも、現在の位置にやってくるには1億年ほどかかる計算になります。


これは少々厄介な問題があることを示しています。星のスペクトルから、この星は太陽の9倍の質量を持つ主系列B型星で、若い星であると考えられています。このタイプの星は、通常2000万年以上の寿命を持つことができません。


Brownらは、もともと近接した二重星と離れた三番目の星からなる三重星として、我々の天の川銀河の中心付近で生まれたのではないかと提案しています。そして、 三番目の星がブラックホールに捕まり、近接二重星が高速度星として放り出されたとしています。銀河系を飛び出したあと、二重星は片方(または両方)が膨張し、他方を飲み込み、合体して新しい一つの星として再生したというのです。このような星は球状星団の中にみられ、'blue straggler(青いはぐれ星)'として知られています。


チームは現在、銀河系の外に遠ざかりつつある他の四つの高速度星の起源の解明に取り組んでいます。

  • 'A Runaway Star Tells a Long Story', Sky and Telescope誌, 2010年11月号

2010年10月15日金曜日

太陽の320倍の重さを持つ星

1920年代より研究者の間では、宇宙で最も重い星の質量は太陽の100-120倍であると考えられてきました。1924年にアーサー・エディントン(Arthur Eddington)により、これより重い星は放出するエネルギーが重力を上回り星自身の外層を吹き飛ばしてしまうという自己制御機能が働く、という計算が示されていたからです。

その後、この「エディントン限界(Eddington limit)」は若干上方修正されています。最近では、ビッグバン直後の第一世代の星は重金属が含まれない水素とヘリウムのみで構成されているため、この上限値はずっと大きくなることも認識されています。星の最外層が輻射に対してより透明なため輻射圧を受けにくいためで、太陽の数百倍程度の質量まで成長することが可能と考えられています。

しかし、最近の観測結果は、このエディントン限界に疑問を投げかけています。
直接的な質量計測(分光食連星の重力測定)から、カシオペア座のHD15558が太陽の152±51倍、大マゼラン雲のR145が140±37倍の質量を持ち、これまでのところ宇宙で最も重い星とされています。しかし、これらの値に関してはまだ議論がなされている段階で、最も重い星のリストは新たな計測が行われるたびに順位が入れ替わっている状態です。

この7月には、太陽の265倍の重さを持つ星の発見と、その誕生時の質量は320太陽質量と推定されるという発表がなされ、そのニュースは世界中の主要メディアを駆け巡りました。

その星は大マゼラン雲の球状星団R136(タランチュラ星雲の中心)の最も明るい星であるR136a1です。太陽の9百万倍の光度で輝いており、数十年間に渡って観測が行われてきている星です。Paul Crowther(シェフィールド大学、イギリス)とその研究チームはハッブル宇宙望遠鏡とVLT(Very Large Telescope, ヨーロッパ南天天文台)のスペクトル観測データを用いて質量の推定を行いました。また、同研究チームはR136内に太陽の135-195倍の質量を持つ超巨大星が新たに三つ存在することも報告しています。彼らはイギリスの論文雑誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに、これら四つの星で10万個の星を持つ星団の輻射と星風の半分近くを担っていると報告しています。

しかしながら、他の大質量星の専門家は、この発表に対してまだ懐疑的です。なぜなら、発表された星の質量がこれまでの常識をはるかに超えていることと、質量の推定方法が星の光度と温度および星風の放出レートによる間接的な方法によるものであるからです。この明るさの星の挙動に関しては信頼できる知見は得られておらず、最も信頼のおける質量の測定法は、連星重力の力学的測定です。超巨大質量星の専門家、Don Figer氏(ロチェスター工科大学)いわく、「この分野はまだまだ不確定要素が多く、ほとんどの主張は後に覆されてきている」と述べており、ベルギーの専門研究員Yael Naze氏によると、この新たな質量計測はまだ信頼性に欠けるとのことです。

'A 320-Solar-Mass Star... Really?', Sky and Telescope誌, 2010年10月号より

2010年9月30日木曜日

海王星発見 一周年

2010年4月16日、海王星が1846年に発見されて以来初めて天球の周回を完了し、Johann Gallが9月23日にベルリン天文台から発見した位置へ戻ってきました。冥王星を除くと、太陽系の全ての惑星がその公転軌道を一周したことになります(実際に公転軌道の一周するのは2011年7月12日です。地球が動いていることによる逆行ループの影響で、見かけ上元の位置に戻ってきたようにみえています)。

海王星の発見は、天文学史上、最も有名な逸話のひとつです。パリ天文台のUrbain J.J. Le Verrierが天王星軌道の摂動から、海王星の存在と位置を正確に予測しました。この予測はイギリスのJohn Couch Adamsと共同の功績とされていましたが、最近見つかった文書によると実際のAdamsの寄与は少なく、1840年代のイギリスとフランスの軋轢を緩和するための外交的な配慮の一部であったことが明らかになっています。

  • "Neptune's Returen" Sky and Telescope誌, 2010年8月号より

2010年6月8日火曜日

星になったチロ

星好きな方にはいわずもがな。の名著ですね。

国際的な知名度も高い「藤井旭」さんの著書。
天体写真家という枠を超えた活動もされていて'あぽん'のあこがれの的です。
これまた有名な愛犬チロとの心温まる思い出を綴られた一冊ですが、藤井さん自身の自伝的要素も含まれています。
'出てくる人物も、古在由秀氏、村山定男氏、大野裕明氏、渡辺潤一氏と著名な方々ばかりで、逆に当時のコミュニティーのアットホームさがかいま見られます。

ほのぼのとした口調で語られていますが、人間、本当に好きなことをやりつづけると、仲間もあつまり、思わぬことを成し遂げられてしまうということが、強烈なメッセージとして伝わってきました。
最近流行のガツガツとした自己啓蒙書とはひと味違った味わいのある本でした。

84年に刊行されていたのですが、実は今日初めて読みました。お恥ずかしい限りです。



2010年5月8日土曜日

Solar Dynamics Observatory (2)

先日、Solar Dynamics Observatory (SDO)のファーストライトの記事を紹介しましたが、SDO計画に関する記事があったのでお届けします。

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NASAの'Living With a Star Program'の最初のミッションであるSolar Dynamics Observatory (SDO)は、太陽活動の変動や地球への影響を調査します。約3.1tの衛星は2010年初めにフロリダのケープカナベラルからアトラスV型ロケットによって静止軌道に打ち上げられます。そのため、常時、太陽を観測しつつLas Cruces(New Mexico)の地上局と通信することができます。

SDOは太陽大気の小さなスケールの変動をさまざまな波長で同時に観測し、強力な磁場がどのように生成/成長するのかを調べます。また、蓄積された磁場エネルギーがどのように太陽風や高エネルギー粒子に変換されるのか、それらのプロセスが太陽のエネルギー放出量の変化にどのように影響するのかも調査されます。

SDOのメインミッションは5年間続く予定で、10年分の燃料が搭載されています。8.5億ドルを費やすこのミッションでは、膨大な量のデータが取得されます。SDOはハイビジョンの10倍の分解能で太陽全面画像を毎秒撮影します。4096x4096ピクセルのSDOの画像はIMAXムービーに匹敵する品質です。取得されるデータ量は一日当り1.5テラバイトで、音楽に換算すると約50万曲をダウンロードするのに相当します。

Atmospheric Imaging Assembly (AIA)は四つの望遠鏡を並べた装置で、コロナ外縁部を複数波長で同時撮影します。一秒角分解能で太陽直径の1.3倍の視野の画像を10秒ごとに10波長で取得します。AIAのデータは、太陽磁場の変動が、コロナを加熱しフレアを引き起こすエネルギーにどのようにして転換されるかを理解する為に役立ちます。

Extreme ultraviolet Variability Experiment (EVE)は、さまざまなタイムスケールでの極紫外線スペクトル強度の変化を測定します。

Helioseismic and Magnetic Imager (HMI)は、太陽の内部を観測し太陽磁場を作り出すプラズマ流をマッピングします。太陽を横断する音波を用いて太陽内部の画像を作成し、光球から現れる磁場の強度と方向も測定します。HMIで取得されるデータは、太陽活動の11年周期を引き起こすメカニズムへの知見を与え、磁場が黒点周辺に集中する過程を明らかにします。

SDOの計測機器は、太陽磁場とその地球への影響を探査します。SDOのデータは、太陽表面にかかるコロナループやフレア、突如数百万トンの物質が地球に向かって放出されるcoronal mass ejection等がどのようにして起きるのかを調査するために使用されます。このような宇宙天気をよりよく理解することは、電力利用や人工衛星、大気圏外へ挑む人々を守る助けとなるでしょう。

  • 'NASA sets its sights on the Sun', Laura Layton & Dean Pesnell, Sky and Telescope誌, 2010 1月号