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2012年5月26日土曜日

金環日食はかろうじて、、、次は金星の日面通過です

金環日食 2012年5月21日

「2012年の金環食まで待ってるから、とびきりのやつを、、、」 往年のドリカムファンには懐かしいフレーズでした。 当時は遠い先のことだと思っていましたが、とうとうその日がやってきました。
今回は千葉県市川市からの観望となりました。 日食帯のど真ん中に位置していて絶好のポジションだったのですが、天候に恵まれませんでした。 日食開始時は雲が薄く日食グラスを通してはっきり欠け始めが見えていましたが、徐々に雲が増え金環食の頃には一面雲に覆われてしまいました。 僅かな雲間にその姿がかろうじて認められる程度。。。 日食グラスでは減光されすぎて太陽を見つけることすら難しい状態になりました。
そこで役に立ったのが、1987年の部分日食の際に作成した手製の日食フィルター。 低感度フィルムを感光させ重ねて作ったもので、枚数を調節して市販の日食グラスより減光率を下げて観察しました。 現在では推奨されていないものです。
2012/5/21 07:40 千葉県市川市にて
写真撮影はNDフィルターを用意していなかったためあきらめていたのですが、雲が厚かったことが幸いしフィルター無しで撮影することができました。 急遽準備したため、残念ながら金環食を収めることはできませんでしたが、良い記念を残すことができました。
家族ともども貴重なショーを堪能することできました。

金星の日面通過 2012年6月6日

そして金環日食のあとは、金星が太陽の前を横切る日面通過という非常に珍しいイベントが控えています。
金環日食は地球的には二年に一回程度は起こる現象で、日本でも2030年6月1日に北海道で見ることができます。 しかし、金星の日面通過は今回を逃すと105年後の2117年まで地球上からは見ることができません(前回は2004年6月8日)。
金星のシルエットは太陽の3%の大きさしかなく、肉眼ではかろうじて存在を確認できる程度ですが、安全対策をした望遠鏡では、天文学の歴史的発見と関係深い現象を観測することができます。

金星大気の発見

撮影:Lorenzo Comolli, 2004/6/8
金星のシルエットが太陽面に接触し徐々に進入していくと、金星全体に光の輪に包まれる不思議な現象が見られます。 太陽から離脱していく際にも同様の現象が発生します。 1761年の日面通過を観測したロシア人天文学者Lomonosovが、背景の太陽光が金星の大気によって屈折し反対側にまで現れることが原因であると主張しました。 金星に大気が存在することが初めて指摘されたのです。

金星までの距離の計測

ハレー彗星で有名なエドモンド⋅ハレー(Edmond Halley, 1656-1742)は、日面通過を利用した金星までの距離の測定法を考案しました。 当時は太陽と各惑星間の相対的な距離の比は明らかになっており、金星までの距離を決めることができれば太陽系全体のスケールを見積もることができたのです。
地球上の離れた地点から金星を観測すると、背後の太陽に対してずれて見えます。 そのため、日面通過の際に金星が太陽に接触する時刻が若干異なります。 その時間差から金星に対する視差を算出し、三角測量の原理で金星までの距離が導き出されます。 金星が太陽に完全に入り込む第二接触、および太陽から抜け始める第三接触の際に、接触時刻を正確に測ることができます。 地球に最も近い惑星である金星を使うことで、高い精度での距離決定ができると考えられていました。
ハレー自身は1761年の日面通過を迎えることはできませんでしたが、18世紀から19世紀にかけて、この測定方法を用いた計測が実施されました。 しかしながら、想定されていた精度で距離を決めることはできませんでした。

黒いしずく(Black Drop)

撮影:Andjelko Glivar, 2004/6/8
ハレーの測定法を阻んだのは、Black Dropと呼ばれる現象でした。 金星が太陽面に完全に入る際(第二接触)に、写真のように金星の影と太陽の縁とが黒い影で結ばれて、黒いしずくのように見えます。 地球の大気や望遠鏡による回折と、太陽の縁での急激な減光の影響が相まって、繋がったような形になるのです。 太陽面を抜ける第三接触の際にも同様の現象が起こります。 片目を閉じ、電灯や蛍光灯を背景にして親指と人差し指を徐々に近づけると、指が接触する前につながって見えるのと同じ現象です。
この現象のため、金星の接触時刻の測定値に大きな誤差が生まれ、時刻差を正確に測ることができませんでした。 1761年、1874年、および1882年の日面通過の際にも同様の測定が行われましたが、いずれも満足の行く結果が得られませんでした。
結局、火星までの距離が先に計測されました。 1877年の火星の衝の際にスコットランド人のDavid Gill(1843-1914)によって行われた視差測定より、現在知られている値と比較して0.17%という高い精度で天文単位を導きだすことができました。

日食ほど派手ではありませんが、同じように宇宙の神秘を感じさせてくれるショーになるのは間違いありません。 日本は潜入から離脱までが良い条件で観測できる絶好のポジションにあります。 もし望遠鏡で観測できるチャンスがあれば逃す手はありません。 ただし、危険ですので減光フィルターや投影版を使うなど安全対策は絶対に必要です。 事故にはくれぐれも注意して楽しみましょう。

第一接触7時05分
第二接触7時22分
最大食10時24分
第三接触13時25分
第四接触13時43分

2012年5月16日水曜日

双眼鏡で星空ハンティング 球状星団M13

この週末は久しぶりの月の無い夜の晴れ間となりましたね。 20年来の付き合いになる10×70双眼鏡を引っ張りだして、近所の原っぱでしばし星空を眺めました。 星図を頼りに星を辿りながら天体を探すのは、釣りに似た楽しみがあります。
双眼鏡でも楽しめる天体として、北天で最も明るい球状星団の一つM13があります。 ヘラクレス座のη星とζ星を結ぶ線上のη星寄り1/3の所に位置しており、η星とζ星を二、三回行き来していると、星とは明らかに異なるぼーっとした塊が見つかります。 街灯が近くにある、あまり条件の良くない場所なのですが、自分の手で導入した満足感も手伝って、十分堪能できました。
春から夏に変わるこの季節、M13に限らず、りょうけん座のM3やへび座のM5など、明るい球状星団(Globular Cluster)が空を賑わせています。 銀河系の中心を取り囲む巨大なハローに存在しているため、銀河中心(射手座)の見える夏の南の空に近付くにつれて見えやすくなるのです。
球状星団は年齢が百億年を超える化石のような天体で、銀河系が形作られたのと同時期かそれ以前に生まれたと考えられています。 百光年足らずの領域に数十万個の星が詰め込まれており、星の密度は銀河円盤内の平均より数千倍大きくなっています。 星々は互いの重力で束縛されて球状になっているのです。
このような球状星団は現在の銀河系では形成されていません。 現在銀河系で生まれている星団は、重力で束縛されておらず、長い年月を経るとバラバラに散らばってしまう散開星団が主です。 そのため、球状星団がどのようにして生まれたのかを直接調べることはできません。 一方、お隣の大マゼラン星雲では、銀河系の球状星団よりスケールの大きなPopulous Clusterが生まれています。 マゼラン雲の観測から球状星団形成の秘密が明らかになるかもしれません。

2012年5月11日金曜日

エータカリーナ星の爆発を再現する光エコー

太陽の約90倍の重さの高温の超巨星エータカリーナは、Homunculus(小人)星雲の二つのバラ型構造内部で輝いています。 二つの球体は、1838年から1858年の間に起こった巨大爆発(Great Eruption)の際に放出されたもので、太陽の10倍にも及ぶ質量の物質が膨張を続けています。 このとき、エータカリーナはシリウスに次いで全天で二番目に明るい星でした。 その後、エータカリーナ自身は大質量を保ったまま生き残り、太陽系近傍での超新星爆発の最有力候補となっています。
「Great Eruptionの原因は恒星天文学の最も大きな謎です」とゴダード宇宙飛行センター(NASA)のMichael Corcoranは言います。 研究者は、Great Eruptionの時に何が起きたかを実際に見ることができる、タイムマシーンのような新しい装置を手にすることを夢見てきました。
そして今日、ある意味でその夢は叶いました。 ある研究チームが巨大望遠鏡に搭載された高感度検出器を用いてGreat Eruptionの光エコー(light echo)を発見したのです。 この光エコーは、エータカリーナから80光年以上離れた星雲物質による反射光で、19世紀の爆発の際の光を再現しています。
光エコーの観測から、すでに新しい知見が得られています。 これまでGreat Eruptionの原因として有力だったのは、エータカリーナの増光に伴う輻射圧の上昇によって引き起こされた大質量の星風でした。 しかし、数年前にアリゾナ大学のNathan Smithが、おそらく超新星の前段階である星の内部での爆発をGreat Eruptionの原因として提唱しました。 彼の研究チームはかすかな光エコーを解析し、Great Eruptionの温度が約5000K (4700° C)であり、星風モデルが有効に働く温度より少なくとも2000° Cほど低いという結果が得られました。
Smithらの証拠はまだ星風説を排除するほどのものではありません。 しかし、微かで検出が難しい光エコーですが、さらなる証拠を提供できる可能性を秘めています。 特に、Great Eruption初期の増光がゆっくりだったのか、それとも急激だったのかを明らかにできるかもしれないと、ゴダードのTheodore Gullは言います。 Great Eruptionの原因を特定する動かぬ証拠となるでしょう。
  • "A Light-Echo Replay of Eta Carinae's Blast" Sky and Telescope誌, 2012年5月

2012年5月7日月曜日

太陽黒点の秘密

水素は宇宙で飛び抜けて存在量が多い元素です。 地球上では水素分子(H2)が中心ですが、宇宙空間では多くが単一の水素原子(H)として存在しています。 H2 のほとんどは、低温(-260 ° C)で密度が高く紫外線からも守られている星間ガス雲の内部でのみ存在しています。
このようなH2 が高温の太陽から検出され、太陽黒点の形成と維持に一役買っていることが、ハワイ大学とアメリカ国立太陽観測所の共同チームの観測から明らかになりました。
Sarah Jaeggliの研究チームは、国立太陽観測所のDunn太陽望遠鏡(ニューメキシコ州)を用いて23個の黒点領域を観測しました。 その結果、低温な太陽黒点暗部では水素元素の2.3%がH2 の形態で存在していることが示されました。
黒点は磁力線の束が太陽内部から出現する領域です。 磁場がイオン(電離)ガスを閉じ込め太陽表層の熱対流から守るため、周囲より低温になり黒点として観測されます。 そのような領域では、H2 を形成される可能性が生じます。
研究チームはまた、H2 の形成は急速な磁場の増加を引き起こし、黒点を小さく長持ちさせると主張しています。 二つの水素原子が一つの分子に置き換わることにより、黒点内部のガス圧が下がり収縮します。 磁力線も収縮するガスに引きずられて密になり、磁場がさらに強くなるのです。
太陽にH2 が存在するということは、太陽黒点がなぜコンパクトに保たれ寿命が長いのかという謎をとく重要なヒントとなり、ひいては、太陽フレアや地球環境における宇宙天気の予報技術の進歩に貢献する可能性もあります。
  • "An Unexpected Secret of Sunspots" Sky and Telescope誌, 2012年5月

2012年5月3日木曜日

最も小さなブラックホール

ブラックホールの周辺領域ほど激しく神秘的な場所はありません。このような領域で起こっている興味深い現象を解くヒントを得るために、観測により得られた豊富だが謎に満ちたデータが蓄積されています。

物質がブラックホールに向かって落下するに伴ってX線を放射するほど高温になり、異常な影響をX線放射に残します。35年以上に渡る研究から、ほとんどのブラックホールはX線のフレアと脈動の様子によって4つのタイプに分けられることが明らかになっています。これらの光度と継続時間における違いは、ブラックホールのサイズ、回転速度、質量降着率、そして、おそらくその他の未知の原因によっています。

変光星わし座V1487として知られるGRS 1915+105は、太陽のおよそ14倍の重さのブラックホールの周りをオレンジ色のK型巨星が公転している天体です。この巨星は、マイクロクエーサーになるのに十分なガスをブラックホールに注ぎ込みます。このブラックホールは断続的なジェットを極方向に光速の98%のスピードで放出しており、周辺物質は典型的に数秒から数時間継続する10種類以上のX線信号を示します。

特にジェット全体のオン/オフが高速に切り替わる、「ハートビート(鼓動)」と呼ばれているパターンが独特です。降着円盤の内側が強力な円盤風が発生するほど成長して高温になると、円盤へ物質が降着できなくなりジェットが止まります。さらに成長し温度が上がると、円盤の内側が崩壊してブラックホールに落ち込み円盤風が止まって、ジェットが再び形成されます。このサイクルが時には40秒間隔で繰り返されます。

この「ハートビート」はこれまでGRS 1915+105特有のものでしたが、現在では二つめの系が見つかっています。さそり座のIGR J17091-3624はGRS 1915+105と同様ですがより早いサイクルのX線信号を示します。ハートビートは早い時で5秒間隔のサイクルで発生します。原因として最も有望な説は、ブラックホールの質量が太陽の3倍程度しか無く、それに応じてすべてがスケールダウンしているというものです。

太陽の3倍は、ブラックホールになる最小質量とブラックホールになれなかった中性子星の理論的な境界となる質量です。
  • "Smallest Black Hole", Sky and Telescope誌 2012年4月号